刑法第2問

一 丙の罪責
1.丙が盗品と知りながら、指輪を甲から買い受けた行為につき、盗品等有償譲受罪(256条2項)が成立する。
2.次に、丙が価格を欺いて甲から指輪を買い受けた行為につき、詐欺罪(246条1項)が成立しないか。指輪は盗品であり、不法原因給付となるため、財産上の損害が認められないのではないかが問題となる。
(1) 思うに、刑法は、民法と異なって財産秩序の維持をも目的とするところ、権利関係の錯綜した現代においては、占有を一次的に保護することが財産秩序の維持に資する。
そこで、不法原因で給付された物についても、その物についての占有が失われ、使用収益が不可能となった場合には財産上の損害を認めることができる。
(2) 本問でも、甲は指輪の占有を奪われておりその使用収益が不可能となったといえるので、財産上の損害は認められる。
(3) よって、丙の行為には詐欺罪が成立する。
3.以上より、丙は、盗品等有償譲受、詐欺の罪責を負い、両者は併合罪(45条)となる。
二 甲の罪責
1(1)甲がXの占有する指輪を盗み出した行為には、窃盗罪(235条)が成立する。
この点、指輪はYの所有物であるが、刑法は占有を一次的に保護して財産権の保護を図ろうとしているので、占有侵奪がある以上、同罪が成立する。
(2) もっとも、甲は、X及びYの直系血族であるから、刑は免除される(244条1項)。
(3) よって、甲は、窃盗の罪責を負う。
2.また、甲が、盗品であることを秘して丙に指輪を売却した行為については、詐欺罪は成立しない。
  盗品等を売却する際には、これを秘して売ることは当然予想されることであって、盗品等の本犯においてすでに評価されている行為といえるからである。
3.甲が、指輪の売却代金10万円を遊興費として消費した行為について、横領罪(252条1項)が成立しないか。
(1) 同罪は委託信任関係を破ることを本質とするから、所有者と占有者の間に委託信任関係があることが必要であるところ、盗品等の犯人相互の間の委託信任関係も、財産秩序維持の観点からなお刑法上の保護に値するから、甲と乙の間に委託信任関係は認められる。
(2) また、刑法では民法と異なって、財産秩序維持を目的とする以上、金銭の所有と占有は必ずしも一致させる必要はなく、使途を定めて託された金銭は「他人の物」ということができるところ、甲の占有する金銭は乙のものであり、甲にとって「他人の物」である
 (3) また、金銭を遊興費に消費する行為は「横領」にあたる。
 (4) さらに、甲に交付された金銭は盗品の売却代金であり不法原因給付にあたるが、財産秩序維持を目する刑法においては、なお財産上の損害が肯定できる。
(5) よって、甲は、横領罪の罪責を負う。
3.以上より、甲は、窃盗、横領の罪責を負い、両者は併合罪となるが、窃盗罪の刑は免除される。
三 乙の罪責
1.乙が甲と共にXから指輪を盗み出した行為には、窃盗罪が成立する。もっとも、乙も244条により刑が免除されないか。
(1) 思うに、同条は、法は家庭に入らないという見地から政策的な処罰阻却事由を定めたものである。
  とすれば、同条により刑が免除されるためには、家庭内の犯罪といえなければならない。そして、窃盗罪は究極的には本権の保護を図るものであるから、家庭内の犯罪といえるためには、占有者のみならず所有者との関係においても同条所定の関係が認められる必要があるというべきである。
(2) 乙は指輪の所有者Yと同条所定の関係がないので、同条により刑は免除されない。
(3) また、乙は、指輪をXの物と誤信しているが、これは処罰阻却事由の錯誤にすぎず、故意(38条1項)は阻却されない。
(4) よって、乙は窃盗罪の罪責を負う。
2.また、乙が甲に指輪の売却を命じた行為については、詐欺罪の教唆犯(246条1項、61条1項)は成立しない。
  共犯は、正犯を通じて法益侵害を惹起するから処罰されるものであるから、正犯が成立しない以上、共犯も成立しないと解すべきだからである。
以上