刑訴第1問

1.本問警察官は来意を告げることなく捜索差押え場所である「甲が宿泊中のホテルの客室」に立ち入っているが、かかる行為は適法か。
(1) 思うに、令状に捜索差押えの対象物の記載を要求し(218条1項、219条1項、憲法35条)、令状の呈示を要求した(法222条、110条)法の趣旨は、捜索差押の範囲を明らかにして被処分者の防御権を確保しようという点にある。
  とすれば、捜索差押え場所に立ち入るには、原則として来意を告げなければならないと解すべきである。
 もっとも、常に来意を告げなければならないというのでは、証拠隠滅がなされる恐れがある場合や、被処分者が任意に協力しない場合も考えられるから、捜査の必要性を害することとなり妥当でない。
  そこで、被処分者の協力が期待できないような場合や、証拠隠滅の行われる危険がある場合には、来意を告げることなく捜索差押え場所に立ち入ることも許されると解する。
 (2) 本問では、捜索差押の被疑事実は覚せい剤所持被疑事件であり、覚せい剤はその大きさ、水溶性の高さから、証拠隠滅がなされやすいものである。また、ホテルの客室は内側からドアを押さえられるなどの抵抗を受ければ捜査官が立ち入ることも困難となる場所である。
   よって、本問においては、捜索場所への立ち入りに来意を告げることは必要ないと解する。
(3) また、警察官がマスターキーを用いて客室ドアを開錠した行為は、「錠を外」す行為(222条、111条)であり、捜索差押に必要な処分として許される。
(4) よって、上記警察官の行為は適法である。
2.次に、警察官がトイレに駆け込もうとする甲を制止して覚せい剤を取り上げた行為は適法か。
(1) 思うに、令状の呈示を要求した(222条、110条)法の趣旨からは、令状の執行の前に令状呈示がなされるべきであると解する。
  しかし、処分者の安全や証拠隠滅行為などを防ぎ、実効的な捜索差押えをするためには、現場にいる者の数やそれらの者の動静を把握するなど、現場保存的行為をすることが不可欠である。
  よって、現場保存的行為については、令状の呈示前にも行うことができると解する。
(2) 本問警察官の行為は、覚せい剤を持ってトイレに駆け込もうとする甲を制止して、その覚せい剤を取り上げたものであるから、証拠隠滅を防いで現場保存的行為を行ったものということができる。
(3) よって、上記警察官の行為は適法である。
3.次に、警察官が乙のボストンバッグを取り上げてバッグを捜索した行為は適法か。場所に対する令状で、その場に居合わせた者の携帯品を捜索することができるかが問題となる。
 (1) 思うに、法が「場所」、「身体」、「物」を区別して規定している以上は、場所に対する捜索令状で、居合わせた者の携帯する「物」を調べることはできないのが原則である。
   もっとも、「場所」に対する令状で、その場所に付随する物については当然に捜索の対象とできるというべきところ、捜索場所に常駐する者の携帯品については、それが携帯されているかその場所に置かれているかは偶然の事情にすぎないのであるから、かかる携帯品についても捜索できると解する。
 (2) しかし、乙は、甲の「知人らしき」人物にすぎず、「甲が宿泊中のホテルの客室」に常駐する人物であるとはいえない。
   よって、本問捜索差押え令状で乙の携帯するボストンバッグを捜索することはできない。
 (3) よって、乙の抵抗を排除してボストンバッグの捜索を行った警察官の行為は違法である。
 (4) また、差押え令状の効力も及んでいない以上、発見された覚せい剤の差押えも違法である。
以上