公法1(憲法)

第1 設問1について
弁護士としての主張
(1)Xから以来された弁護士としては、本件規則はXの遺伝子治療研究の自由を侵害し違憲である、本件中止命令はXの遺伝子治療研究の自由を侵害し違憲である旨の主張を行う。
(2)規則の違憲性について
   本件規則8条は、遺伝子治療研究の中止等を命じることができると定めているところ、本件中止命令も、これに基づき行われているものである。
   そして、かかる規則が、Xの遺伝子治療研究の自由を制限するものであることは明らかであるところ、遺伝子治療研究の自由は、学問の自由として憲法23条で保障される。
   学問の自由は個人の精神的活動を保障するものであるから絶対的に保障される。
   仮に、一定の制約が許されるとしても、学問の自由のような精神的自由は自己実現の価値が高いし、遺伝子治療研究は、難病治療等に役立つ極めて有益な研究であるから、その制約は厳格な審査基準によるべきである。
   本件規則の目的は、遺伝子治療によりこれから生じうる抽象的な危険を防ぐものにすぎず、必要不可欠のものとはいえない。また、手段としても、中止を含む命令を行えるというのは過剰であり、必要最小限とはいえない。
   よって、本問規則は違憲である。
(3)中止命令の違憲
   仮に、規則自体が合憲であるとしても、本件中止命令はXの遺伝子研究の自由を不当に侵害するものであるから違憲である。
   すなわち、Xの研究は難病についての遺伝子治療研究であり、遺伝子治療研究の中でも特に有益で価値の高いものである。また、その研究方法も、被験者であるCに遺伝子治療を行う必要性等、本指針が定める説明をすべて行って、その同意を得ており、極めて正当な手続により行われたものといえる。
   さらに、Cは一旦は重体に陥ったものの、これも予想できなかたことを原因とするものであり、Xらの怠慢により引き起こされたものでないから、Xの研究方法や研究態度は真摯なものである。
   にもかかわらず、Cが回復しており、事故の損害も少ないといえる状況において、研究の中止を命令することは、学問の自由として保障されるXの遺伝子治療研究の自由を侵害するものというほかない。
   よって、本件中止命令は違憲である。
2. 私の見解
(1)規則の違憲について
   この点について、大学側からは、本件規則が学問の自由で保障される研究の自由を制約するものであるとしても、その制約は許されるものであるとする反論が考えられる。
   まず、学問の自由といえども研究活動として外部的に現れる以上、絶対無制約のものではないという反論が考えられる。私も同旨である。
   また、遺伝子治療は未知の危険が常に潜んでおり、回復困難な損害を生じるおそれがあるばかりでなく、人間の尊厳を脅かす危険をも有する研究であるから、その制約はある程度広く認めざるをえないので、厳格審査基準は妥当でなく、必要かつ合理的な制限である限り許されるべきであるという反論が考えられる。
   たしかに、遺伝子研究は難病治療など人類に多大な貢献をもたらす可能性を秘めた学問といえる。また、精神的自由の制限は、経済的自由の制限に比して政策的な観点を入れるべきものでないので、国会の裁量を尊重すべき理由は小さく、司法が厳格な審査をすべきであるといえる。しかし、他方で、遺伝子治療は「人間の有様」にもかかわる問題を含んでおり、その危険性はまったく未知で回復不能な損害をもたらすおそれもある。遺伝子治療によって、憲法の基本原理といえる「個人の尊重」(憲法13条参照)の前提となる人間の尊厳が害される危険があることは否定できないのである。
   このような遺伝子治療の特殊性に照らすと、その制限は、実質的関連性の基準により判断すべきものであると解する。
   そして、本件規則の目的は人間の尊厳を保持することにある。遺伝子治療の上記特殊性に照らし、かかる抽象的な目的であっても、重要なものといえる。
   また、一定の重大な事態に中止を含めた様々な命令をすることができるという手段は、人間の尊厳を保持するため、これを侵しうる兆候が見られた研究に対して中止を含めた見直しを行うというものであり、罰則もないのであるから、目的達成のため必要最小限度のものであり実質的関連性が認められる。
   よって、本件規則は合憲である。
(2)命令の違憲性について
   この点について、大学側からは、合憲である規則に従って行われた命令であるから、合憲であるとの反論が考えられる。また、Xは遺伝子情報保護規則に違反してCにその家族の遺伝子等を開示しているので、その研究の中止を命令されてもやむを得ないとの反論が考えられる。
私は、中止命令の根拠規定である規則が合憲である以上、これに基づき行われた命令は、Xが当該規定による制約を受け得ない特殊な事情を有していない限り、合憲であると解する。
本問では、Xが特に一般の遺伝子治療研究者と異なる事情を有していたとはいえないので、本件中止命令も合憲である。
第2 設問2
1. 弁護人としての主張
(1)本件遺伝子情報保護規則が本人の求めがある場合でも遺伝子情報を開示しないこととしているのは、これによりXの遺伝子治療研究を行うことを実質上困難にするものであるから、Xの遺伝子治療研究の自由を侵害すると主張する。
(2)また、かかる規則は、被験者の自己情報コントロール権としてのプライバシー権憲法13条)を侵害するものであり、違憲である。
2. 私の見解
(1)まず、大学側からは、遺伝子情報開示規則により遺伝子研究が事実上制限を受けるとしてもそれは間接的付随的なものにすぎず、遺伝子研究の自由の侵害とまでいえないという反論が考えられる。
   私も同旨である。
(2)また、プライバシー権の侵害の主張についてはXに主張適格がないという反論が考えられる。
   私は、自己の権利と密接に関連する限り、他者の人権侵害を主張することも可能であると考えるが、本件ではXが被験者のプライバシー侵害を主張することが、その権利自由と密接に関連するとまでいない。
   よって、合憲である。
以上