公法2(行政)

第1 設問1
1. 法的手段
Fらが本件建築物の建築を阻止するためには、?本件建築確認の取消訴訟行政事件訴訟法(以下、「行訴」という)3条)を提起し、?執行停止の申立て(行訴25条2項)をすることが考えられる。
2. ?の問題点
(1)取消訴訟を適法に提起するには、処分性(行訴3条2項)、原告適格(同9条1項)、客観的訴えの利益(同9条1項かっこ書)、出訴期間(同14条)、審査請求前置(同8条1項ただし書)、被告適格(同11条)、管轄(同12条)等の訴訟要件を満たす必要がある。
   本問では、原告適格が問題となる。
(2)原告適格は、処分の取り消しを求める「法律上の利益を有する者」に認められる(行訴9条1項)。
   取消訴訟は、処分により侵害された権利利益を回復するための制度であるから、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分の根拠法規が保護する利益を、当該処分により侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。
   そして、その判断に際しては、9条2項に挙げられる事項を考慮し、当該処分の根拠法規が、かかる利益を公益に解消せず、個々人の具体的利益として保護しているか否かを検討する。
(3)Fについて
   本問建築確認は、建築基準法(以下、「建基法」と記す。)に基づく処分であるところ、同法は、その目的として国民の生命、身体、財産の保護を掲げている。また、同法は、一定の大きさの建築物について耐火構造であることを要求している(同法21条、2条9号の2)ことを考えると、当該建物より生じる火災等の災害により生命、身体、財産を害される者の利益を、公益に解消することなく個々人の利益として保護しているということができる。
   そして、本問Fは、本件土地から10メートルの位置に住んでいるのであるから、本件建築物に火災等の災害が生じた場合、必然的に生命・身体を侵害されるおそれがあるといえる。
   よって、Fは原告適格を有する。
(4)Gについて
   Gは、Fにマンションを貸しているものであるから、本件建築物から10メートルの位置にマンションという財産を所有している。
   すると、本件建築物に火災等の災害が生じた場合に、かかる財産を必然的に侵害されるおそれがある。
   よって、Gも原告適格を有する。
(5)H、Iについて
   Hは、本件児童室に毎週通う児童である。そして、本件児童室自体は本件土地から数メートルしか離れていない位置にあるので、本件建築物の災害により被害を受けうる。
   しかし、児童室に毎週通うというだけでは、必然的にその災害による被害を受けうる地位にあるとはいえない。これは、その父親であるIも同様である。
   よって、H、Iについては、原告適格は認められない。
2. ?の問題点
(1)執行停止が認められるためには、重大な損害が生じるおそれがあり、これを防ぐため緊急の必要があることが必要である(行訴25条2項)。また、消極要件として、公共の福祉に重大な影響を与えるおそれがないこと、本案につき理由がないとみえないとはいえないことが必要である。
(2)この点につき、本問建築確認の執行停止がなされても、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるという事情はなく、本案についても後述の通り理由がある。
   また、当該建築物が完成すると、建築基準を満たさぬ建物の側に居住し、あるいはマンションを所有しているFらがその生命、身体、財産を喪失するという重大な損害が生じるおそれがある。
しかも、本件取消訴訟は訴えの利益を欠いて不適法却下されることになるので、これを防止すべき必要性は高い。
すなわち、建築確認は建築物の建築前に、その建築予定であるものが建築関連基準に従ったものかどうかを審査するものであるから、建築物完成後にこれを取り消しても、当該建築物が違法建築物となるわけではない。そして、建築物の建築後は、建築確認を取り消さなくても違法建物の除去を求めることができるから(建基法9条参照)、建築確認の取消しを求める必要はまったくなくなるのである。
すると、本問でも、Fらの重大な損害を避けるためには緊急の必要があるといえる。
(3)よって、執行停止の申し立ても認められる。
第2 設問2
1. 違法事由
本件訴訟におい主張しうる違法事由としては、?本件安全条例4条違反、?同条例27条4号違反、?本件予防条例6条1項違反、?公聴会の不開催が考えられる。
2. Fの主張できる違法事由
(1)このうち、Fは、いかなる違法事由を主張しうるかをまず検討する。
(2)この点につき、違法事由の主張は「自己の法律上の利益と関係」あるものに限られている(行訴10条1項)。
   この「法律上の利益」を行訴9条1項の「法律上の利益」と同義に解するならば、Fは、自らの原告適格に関係する違法事由しか主張できないことになる。
   しかし、取消訴訟は法律による行政を回復する制度としての側面を有しているから、訴訟要件の段階と異なり、本案においては広く違法事由の主張が認められてよいし、認められるべきである。
   そうであれば、行訴10条1項は、およそ自己と関係のない違法事由の主張を禁じるものにすぎないとみるべきである。
(3)本問においては、いずれの違法事由もFとまったく無関係なものとまでいえないので、Fは、?から?のすべての違法事由を主張しうる。
3. ?について
 (1)本件建築物は、延べ面積が3000平方メートルを超え、かつ、高さが15メートルを超える建築物であるから、その敷地は幅員6メートル以上の道路に10メートル以上接していなければならないものとされる(本件安全条例4条2項、1項)。
(2)そして、本件土地は、幅6メートルの本件道路に約30メートルにわたり接しているので、当該要件を満たすとも思える。
   しかし、本件道路は位置指定道路であり、本来、私道である。そして、位置指定道路は、宅地造成等の際に新たに開発される敷地予定地が接道義務を満たすため、位置の指定を受けた私道を建基法上の「道路」とみなす制度である。
   とすれば、この指定に関連しない土地との関係では、当該私道を「道路」とみることはできないというべきである。
(3)本件土地は、この指定とは関連するものではないので、本件土地との関係で本件道路を「道路」みることはできない。
   よって、本件土地は本件安全条例4条2項の要件を満たさずに違法である。
4. ?について
(1)本件建築物の地下駐車場入口から、約10メートルのところに本件図書館があり、その図書館内部には本件児童施設がある。この児童施設が、本件安全条例27条4号の施設といえる場合、本件建築確認は、同規定の要件に反して違法である。
(2)この点につき、同規定の趣旨は、幼稚園や養護学校、老人ホーム等、判断能力や運動能力に劣る者が多く通行すると考えられる道路の通行量を可及的に増やさぬことで、交通事故を減らし、これらの者の生命・身体を保護しようとする点にある。
   そして、本件児童施設は、児童関係の図書を一箇所に集め、一般の利用者とは別に閲覧場所を設けたものであって、児童用のトイレや幼児の遊び場コーナーもあるなど、児童や幼児のために設けられた施設といえる。
   しかし、本件施設は、あくまで本件図書館の施設の一部であって、その占有面積も3440平方メートルある本件図書館の1階約100平方メートルを占めるにすぎない。また、本件児童施設は専用の出入り口は午後5時に閉鎖されるものの、図書館の他の部分とは内部の出入り口で繋がっており、本件図書館の利用者は誰でも行き来できる構造になっているのであるから、本件施設は、結局、本件図書館の一部の施設にすぎないとみるべきである。さらに、児童用に用意された席も10席と多くない。
そうであれば、本件施設は、幼稚園等に類似する施設として、判断能力や運動能力に劣るものが多数尋ねる施設であるとはいえない。
(3)よって、本件施設は本件条例27条4号の施設にはあたらないから、かかる違法事由は認められない。
5. ?について
(1)本件予防条例6条1項は、中高層建築物を建築しようとする建築主に周辺住民への説明義務を定めている。
   これは、かかる説明を行わせることで予め当該建築についての紛争が生じることを可及的に予防しようとするものである。したがって、その説明は形式的なものでは足りず、建築主は実質的に説明義務を果たさねばならない。
   本問でAが行った説明会は、住民に質問の機会を与えず、一方的に終了を宣言するなど、形ばかりのものだったのであるから、説明義務が果たされていたとはいえない。
   よって、本件建築確認手続については説明義務違反の違法事由がある。
(2)もっとも、手続の違法が直ちに処分の違法をもたらすわけではない。しかし、手続保障も重要な権利であるから、重大な手続の瑕疵は、処分の違法をもたらすというべきである。
   本問では、説明義務は、予め住民との紛争を予防しようとする趣旨であり、紛争の発生を絶対に許さないものではない。説明会を開いても住民が納得しない条件で建築主が建築確認申請を行うこともできるのであるから、説明会が適切に行われなかったこと自体をもって重大な手続き的瑕疵であるとまでいえない。
(3)よって、かかる違法事由も認められない・
6. ?について
  これについては、公聴会の開催を義務付ける規定はないので、違法事由とならない。         以上