選択1(倒産)

1.設問1(1)について
(1)A社がQ社に、その希望する条件で、旅館事業を承継させる方法として、会社法上の事業譲渡(会社法467条1項1号)が考えられる。
   よって、これを行うためには、まず裁判所の許可を得る必要がある(民事再生法(以下、「民再」と記す。)42条1項)。
   この場合は、裁判所は、債権者又は債権者委員会、及び労働組合の意見を聴かなければならない(民再42条2項、3項)。
(2)また、事業譲渡を行うには、会社法株主総会特別決議が要求されている(会社法467条1項1号、309条2項11号)。
   しかし、本件では、A社株主で合わせて40パーセントの株式を保有するPの弟らは、旅館を手放すことに強く反対しており、特別決議の要件である3分の2の賛成を得ることは困難であると考えられる。
   そこで、A社としては、この承認決議に代わる許可を裁判所に求めることになる(民再43条1項)。これは、債務超過にある会社の株式は、実質的にその価値が低いので、債務超過と事業譲渡の必要性を要件として、裁判所の許可により事業譲渡することを認めるものである。
   そして、A社は、総額2億円以上の負債があるにもかかわらず、その資産は本件土地建物のみであり、その価額は1億円であるから「その財産をもって債務を完済することができないとき」にあたる。
   よって、かかる許可決定がなされる可能性は高い。
   そして、裁判所は、許可の決定をする場合には、その裁判所を再生債務者等に送達しなければならず、その要旨を記載した書面を株主に送達しなければならない(民再43条2項)。
2. 設問1(2)について
(1)A社としては、B銀行との別除権協定を締結してその実行を防ぐという手段がまず考えられる。
   しかし、B銀行は、本件土地建物の時価につき、多数の不動産業者が1億円程度と見積もっているにも関わらず、1億5千万円は下らないはずであり、そのような前提での支払条件を示さない限り、抵当権の実行も辞さないと言っているのであるから、当該協定を結ぶことは困難である。
(2)そこで、A社としては、担保権消滅の許可の申し立て(民再148条)をするという手段が考えられる。
   本問では、本件土地建物が旅館の事業の継続に不可欠であることは明らかであり、その時価も1億円程度であると多数の不動産業者が査定しているので、A社としては財産の価額を1億円として申し立てをすれば、これが認められる可能性は高いといえる。
   他方で、B銀行としては、その表示された価額に不満があれば、価額決定の請求をすることができる(民再149条)。
3. 設問1(3)
(1)Cが有する30万円の債権は、A社との請負契約に基づく報酬請求権であるから、再生債権となる。
   すると、再生債権の権利の変更の内容は、平等でなければならないのが原則であるから(民再155条1項本文)、Cに優先的に30万円全額の即時支払いを行うことはできないのが原則である。
(2)もっとも、柔軟で実効的な再生計画のため、少額の再生債権等、差を設けても衡平を害しない場合には、権利の変更の内容に差を設けることができるとされている(民再155条1項ただし書)。
   本問Cは、大変な腕利きである上、A社の庭園のことを熟知しているので、他の業者に代えるのはA社としても大きなマイナスであるし、行楽シーズンにむけて庭園の手入れをしてもらう必要がある。また、30万円という額は、総負債が2億5千万円を超えるA社にとって少額であるといえる。
(3)とすれば、これを即時に弁済することは、事業に極めて有益である一方、その弁済額は少額なものであるから、債権者間の衡平も害さない。
   よって、A社としては、Cに即時弁済することを再生計画として定めることで、手元にあるお金でCに30万円の弁済をすることができる。
4.設問2について
(1)AD間の契約は請負契約であり、双務契約であり、双方未履行の状態にあるから、民再49条により処断される。
(2)よって、A社は、履行か解除かを選択でき、D社の債権は共益債権として保護される。
以上