刑事2(刑訴)

第1 設問1について
1. 捜索・差押えに伴う写真撮影の適法性について
(1)本問写真?から?は、捜索差押えに伴って行われたものである。そこでまず、捜索差押えに伴い、写真撮影を行うことの適法性について検討する。
(2)この点につき、本問のような写真撮影は、建物内部及び人の机等の中にある所持品を撮影するものであるから、プライバシー権憲法13条参照)に対する重大な制約といえ、検証としての性質を有するものといえる。
   すると、かかる写真撮影は、検証令状(刑事訴訟法(以下、略す。)218条1項前段)がない限り、許されないとも思える。
しかし、写真撮影が捜索差押えに伴うものである場合、その捜索場所や物品に対してのプライバシーは、通常、捜索差押え令状発付に際して制約されることが考慮されているはずである。
(3)そうであれば、捜索差押えに伴う写真撮影は、捜索差押えについての「必要な処分」(222条1項、111条1項前段)として許される限度で、検証令状の発付がなくても行うことができるというべきである。具体的には、写真撮影の必要性、被写体の性質(差押えが許されるべきものか、形状が変質しやすいものか、捜索差押えの様子を撮影したにすぎないものか等)を考慮し、社会通念に照らして相当といえる限度で許されると解する。
   以上を前提に、写真?から?の撮影につき検討する。
2.写真?について
(1)写真?は、捜索場所であるT社の事務所内の壁を撮影したものである。
(2)この点につき、壁それ自体は差押えの対象となるものではない。また、捜索差押えの状況を保存しようとするものともいえない。
しかし、本問では、その壁にボールペンの文字が消された跡があり、その跡は、1/12△フトウと読み取ることができた。そして、甲が1月11日の午後9時ころ、乙に電話で「明日の夜、M埠頭で…Vを殺す。」旨を告げたと供述していることからすると、そのボールペンの跡が本件殺人事件と関係している可能性が高いので、証拠として保存する必要は高い。
   また、捜索場所の壁は、捜索差押えの際に捜査員が目にすることは予想されるところであり、捜索差押え許可状によりそのプライバシーは一定の制約を受けることが予定されているといえる。
   とすれば、これを撮影することが社会通念に照らして相当でないとはいえないので、「必要な処分」として許されるというべきである。
(3)よって、写真?の撮影は適法である。
3. 写真?について
(1)写真?は、X銀行の通帳(以下「X通帳」と記す。)を表紙からその内容のページすべてを撮影するものである。
(2)このような撮影は、実質的にはその通帳自体を差し押さえるのと同様の効果を生じるものといえるので、その対象物たる通帳の差押えが許される場合に限り、かかる写真撮影も許されるというべきである。
   本問では、X通帳の名義人はAであり、甲でも乙でもないので、本件殺人事件との関連は薄いとも思える。
   しかし、X通帳の平成21年1月14日の取引欄にはカードによる現金30万円の出金が記載されており、これは、甲が1月15日の夕方乙から報酬の一部として受け取った金額30万円と合致する。しかも、通帳にはその取引欄の横に「→T.K」と鉛筆で書かれており、この記載はT.Kなるものに30万円を渡したことを窺わせるものであるところ、T.Kは甲のイニシャルと合致する。
   これらの点を考え合わせると、X通帳は、本件殺人事件との関連が深いと考えられ「本件に関連する…預金通帳」として差押えの対象になるといえる。
   よって、写真?の撮影も適法である。
4. 写真?について
(1)この写真撮影も、写真?と同様の態様でY銀行の通帳(以下、「Y通帳」という。)を撮影するものである。そこで、X通帳と同様に検討する。
(2)この点につき、Y通帳の名義人はAとなっており、甲や乙ではない。また、その内容も、電気代や水道代の引き落としや、カードによる不定期の払い戻しが記録されているのみで、X通帳と異なり、本件殺人事件と関連するような記載はない。
   とすれば、Y通帳は「本件に関連する…預金通帳」とはいえず、差押えの対象となるものではない。実際にも差押えはなされていない。
(3)よって、かかる撮影は、差押えの対象でないものにつき写真撮影により差押えと同様の効果を生じるものであるので、社会通念に照らして相当性を欠き「必要な処分」であるとはいえない。
   よって、かかる撮影は違法である。
5. 写真?について
(1)これは、パスポート、名刺、はがき、印鑑を撮影するものである。
(2)しかし、これらはいずれも差押えの対象であるとは考えられず、他に撮影の必要性もないから「必要な処分」であるとはいえない。
(3)よって、かかる撮影は違法である。
第2 設問2
1. 本問実況見分自体の適法性
(1)まず、本問実況見分が違法であれば、それを内容とする本問調書も証拠禁止として証拠能力を否定されるべきであるから、まずこの点を検討する。
(2)この点につき、犯行再現は、行動による供述と変わらないので、それ自体非人道的なものとまでいえず、任意になされる限り適法であるというべきである。
   本問実況見分についても、強制の契機はない。
(3)よって、本問実況見分は適法である。
2. 伝聞法則との関係について
(1)本問調書は、書面であるから、被告人の同意がない限り(326条1項)、伝聞法則により原則として証拠能力は否定される(320条1項)。
   もっとも、伝聞法則の適用の有無は、要証事実との関係で相対的に決せられる。なぜなら、伝聞法則は、供述証拠が知覚、記憶、叙述の過程を経て検出されるものであり、各過程に誤りが介在しやすいので反対尋問により内容の真実性をテストする必要があるところ(憲法37条2項前段参照)、伝聞供述では原供述者への反対尋問ができないことを根拠とするので、その供述内容の真実性が問題となる場合にのみ適用されるべきだからである。
(2)本問調書の立証趣旨は「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」とされているが、甲の弁護人は「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」であると考えている。
   もっとも、いずれが要証事実であるにしろ、本件調書自体の内容の真実性は問題となるので、伝聞法則の適用があり、伝聞例外の要件を満たさぬ限り、証拠能力は否定される。
   そして、本件調書は321条3項の要件を満たす限りにおいて伝聞例外となると解する。なぜなら、321条3項が比較的緩やかに例外要件を定めているのは、検証が専門的内容であることも多く、複雑となることもあるので、恣意が入る余地は少ないし、口頭での報告より書面での報告の方が正確を期せるからであるところ、これは、実況見分の場合にも妥当するからである。
(3)もっとも、本問においては、322条1項の要件を満たすことも必要である。理由は、以下の通りである。
   まず、本問調書に関する要証事実は、弁護人の考える立証趣旨通りであると解する。被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと自体は、被告人の殺人及び死体遺棄事件との関係が極めて小さいからである。
   すると、本問調書には、甲が車両を海中へ沈めるまでの写真と、その下に甲の供述を録取した記載がなされているところ、これは、本問調書とは別個の意味を有する甲の供述証拠であるということができる。そして、上記要証事実に照らすと、その内容の真実性が問題となるので、さらに伝聞法則の適用を受けるべきものである。
   よって、322条1項の要件を満たす必要がある。
(4)この点につき、甲の供述を記載した部分には、署名・押印が欠けており、同項の要件を満たさないので、証拠能力は否定される。
   他方で、写真については、その内容は供述と同視できるので伝聞法則の適用を受けるべきであるが、機械的に再現される以上、録取過程の正確を期する署名・押印は不要である。
   よって、写真については、証拠能力は肯定されうる。
以上