商法第2問

1.小問1について
(1) 乙社は甲社の株主であるから、甲社は原則として乙社の株主名簿閲覧請求を拒むことは出来ない(125条3項)。
(2) もっとも、乙社は、甲社が125条3項3号の「実質的に競争関係にある事業を営」むものであるとして閲覧を拒むことができないか。
   確かに、乙社自身が甲社と直接の競争関係にあるとはいえない。しかし、乙社は甲社と競争関係にある丙社の70パーセントの株式を有している。
   そして、70パーセントの株式を有しているということは、乙社は丙社の特別決議(309条2項)まで自己の意思で可決することができるのであるから、実質的に丙社は乙社の支配下にあり、両者は同一視することができる。
   とすれば、実質的には、甲社にとって、乙社も競争関係にある事業を営むものということができる。
 (3) よって、甲社は、乙社からの株主名簿閲覧請求を拒否することが出来るから、本問拒否も許される。
2.小問2について
 (1) 乙社が本問募集株式の発行の差し止めをするためには、210条各号いずれかの要件を満たしている必要がある。順に検討する。
 (2) まず、乙社は、本問株式発行が「特に有利な金額」でなされるものであり株主総会の特別決議を要するところ(201条、199条3項、199条2項、309条2項5号)、甲社はこれを経ていないから、法令違反(210条1号)があるとして、発行を差し止めることはできないか。
  ア 思うに、「特に有利な金額」とは、公正な価額に比して低い価額を言う。そして、既存株主の利益と会社の資金調達の必要性の調和の観点から、公正な価額とは、資金調達に必要な限度で既存株主にとって最も有利な価額を言うと解する。
  イ この点、本問株式発行の払い込み価額は直近3ヶ月の平均株価の90パーセントに相当する額となっているが、これは公正な価額といえる。株式は常に価格変動があるものであるから、この程度のディスカウントは必要な限度のものといえるからである。
    よって、甲社が本問株式発行を行うのに株主総会の決議は不要であり、法令違反があるとはいえない。
  ウ よって、乙社のかかる主張は認められない。
 (3) では、乙社は、本問株式発行が「著しく不公正な方法」(210条2号)によるものであると主張して、発行を差し止めることができないか。「著しく不公正」か否かの判断基準が問題となる。
  ア この点、資金調達の必要がないのに発行された場合には「著しく不公正」な発行といえるとする見解があるが、資金調達の必要性のない会社は存在しない。
    そこで、発行の主要な目的が経営権の支配・維持にあると認められる場合に、「著しく不公正」な発行となると解する。
  イ 本問は、既に業務提携契約がなされていた丁社にのみ割当てがなされている。また、払い込み期日は株主総会の1週間前とされ、当該発行に係る株式についてのみ基準日を効力発生日の翌日とする決議がなされている。
    確かに、本問発行により丁社は45パーセントの議決権を得ることとなり過半数の議決権を得るわけではない。しかし、上記決議が、取締役の選任に関する事項を含む乙の株主提案権(303条)の行使直後に開かれた臨時取締役会でなされたものであることも合わせて考えると、当該発行の主たる目的は、経営権の支配・維持にあるものといわざるをえない。
  ウ よって、本問発行は「著しく不公正な方法」によるものといえる。
(4) よって、乙社は、本問株式発行を差し止めることが出来る。
以上