商法第1問

1.小問1について
(1) Bは、Aが代表したXY間の本件不動産の売買は、事業譲渡に当たるので株主総会の特別決議を要するところ(467条1項、309条2項11号)、Aはこれを経ていないから当該売買契約は無効であるとして、Yに対して所有権移転登記の抹消を請求できないか。「事業の…譲渡」の意味が問題となる。
 ア 思うに、法解釈の統一性を確保して取引安全を図る見地から、「事業の譲渡」とは、会社法21条以下に規定される事業譲渡と同義であると解すべきである。
すなわち、事業譲渡とは、一定の目的のため組織化され、有機的一体となって機能する財産を譲渡し、これにより譲渡会社が営んでいた事業を譲受会社に受け継がせ、譲渡会社が法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいうと解する。
  イ 本問では、売買の目的物は不動産であり、しかもYは本件不動産を改装してXの営んでいたレストランではなく電化製品販売を営もうというのであるから、法律上当然に競業避止義務が生じる場合とはいえないから、本問売買は「事業の譲渡」にはあたらない。
  ウ よって、Bのかかる主張は認められない。
(2) もっとも、本件不動産はX社の資産のほとんどを占める価値を有するものであり、本問売買は「重要な財産の処分」(362条4項1号)にあたるから、取締役会決議が必要である。
  しかし、Aはこれを経ることなく本問売買に及んでいる。そこで、Bは、取締役会決議を欠く本問売買は無効であるとしてYに対し本件不動産の移転登記の抹消を求めることが出来ないか。取締役会決議を欠く「重要な財産の処分」の効力が問題となる。
 ア 確かに、法令違反がある以上、かかる行為は無効となるのが原則であるとも思える。 
   しかし、取締役会決議は会社の内部手続きにすぎず、取引の相手方にとって必ずしも明らかでないから、常に無効になるというのでは取引の安全を害し妥当でない。
 イ 思うに、取締役会決議を欠く代表取締役の行為は、意思決定を欠く法律行為ということができる。これは、心裡留保に類似する状況といえる。
そこで、民法93条但書を類推適用して、会社が相手方の悪意有過失を立証した場合には、当該法律行為は無効となると解する。
  ウ よって、Bは、Y社がAが取締役会の決議を経ていなかったことにつき悪意又は有過失であったことを立証すれば、本件不動産の移転登記の抹消を請求することができる。
2.小問2について
(1) Cは、Xの債権者でありYの債権者ではないから、Yに対して運転資金の返済を求めることはできないのが原則である。
しかし、本問で、AはX社を代表してYに厨房設備と共に本件不動産を譲渡している。これは、レストラン経営のための有機的一体となっている財産の譲渡といえ、事業譲渡にあたる。そこで、Cは、会社法22条によりYに対して運転資金の返済を求めることができないか。
 (2) この点、YはXが使用していた「リストランテL」の名称を引き続き利用している。しかし、「リストランテL」は事業の名称でありYの商号ではないから(6条参照)、同条を直接適用することはできない。
   しかし、同条の趣旨は、事業譲渡後に商号が続用される場合には、譲渡人の債権者は事業に関する債務についても譲受人に承継されたと信頼するのが通常であるから、かかる信頼を保護しようとする点にある。
   そして、事業の名称自体が引き続き利用される場合にも、債権者は同様の信頼を寄せるものと考えられる。とすれば、事業の名称の続用がある場合には、同条の類推適用が認められるべきである。
 (3) よって、Cは、Yに対して、Xに貸し付けた運転資金の返済を請求することが出来る。
以上