民法第2問

1.Bは、Cに対して売掛代金債権80万円を自己の債権者であるAへ支払うよう求めているが、これは、実質的にはAのBに対する債権を担保するための契約であるといえるから、法律関係を検討する際にも、できるだけかかる当事者の意思を尊重した解釈がなされるべきである。
2.小問1について
 (1) Cは、AB間の売買契約が錯誤により無効(95条)であることを理由として、A又はBに対して80万円の支払いを請求することができないか(703条)。
 (2) AB間の売買契約と、BがAに80万円の受領権限を与えた代理受領契約は別個のものであるから、AB間の売買契約が直ちにAの代理受領権限を失わせるものではない。
   しかし、前述のように、Bが代理受領権限をAに与えたのは、AのBに対する売り掛け代金債権を担保させるためであるところ、かかる債権が存在は、代理受領権限を与えることの重要な前提となっているということができる。
   とすれば、AB間の売買契約が錯誤により無効であれば、代理受領権限の授与もまた要素に錯誤があるものとして無効となるというべきである。
   すると、Cは代理受領権限のないAは80万円を支払ったことになり、その弁済は無効であるから、CはAに対して80万円の支払いを求めることができるとも思える。
   この点につき、錯誤無効については第三者保護規定が存在しないが、より本人の帰責性が小さい詐欺においては第三者保護が図られている(96条3項)こととの均衡から、錯誤無効の場合にも善意の第三者についても同条項を類推適用して、無効によって利益を害されないとすべきである。そして、「第三者」とは、取消しによる遡及効(121条本文)からの保護を受けるもの、すなわち、取消し前に独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいう。
   この点、Cは、Bの錯誤無効の主張の前にBとの売買契約を行って80万円をAに支払っていたものと考えられるから、Bの錯誤につき善意である限り、BのAに対する弁済は、AB間の契約の錯誤無効の影響を受けないというべきである。
   とすれば、Cのした80万円の弁済は有効であり、CにはAやBの利得に対応する「損失」がない。
 (3) よって、Cは、AまたはBに対して不当利得に基づき80万円の支払いを請求することはできない。
3.小問3
 (1) Aは、Cの詐欺取消しの前にCから弁済を受けており、取消し前に独立した法律上の利害関係を有するに至った者といえる。
   とすれば、Aの80万円の受領は有効であり、Bはこの80万円のBへの返還債務とBに対する100万円の債権とを相殺することになるので「利得」がない。
よって、Cは、Aに対して80万円の支払いを請求することができない。
 (2) 一方、BはAからの相殺により100万円のうち80万円の支払いを免れることとなり、その分の利得がある。これに対して、Cは契約が無効であるにも関わらず80万円の代金債権を支払っており、Bの利得に対応する「損失」が認められる。
   よって、Cは、Bに対して80万円の支払いを請求することができる。
以上