憲法第2問

1.憲法89条は、宗教団体又は「公の支配に属しない」慈善、教育若しくは博愛の事業(以下、「教育等公益事業」という)に対して公費を支出する行為を禁止している。
  本問制度は、教育等公益事業に対する助成金の交付を内容とするものであるから、合憲であるためには、助成金交付の相手方が宗教団体でなく、かつ「公の支配」に属するものとなっていなければならない。
(1) まず、助成金交付の対象となる事業については、特定の宗教又は思想信条の信奉等を目的とせず客観的にもこれと遮断された態様で営まれることが要求されており、宗教団体への公費の支出とはいえない。
(2) では、交付対象は「公の支配」に属する事業といえるか。「公の支配」の意味が問題となる。
  思うに、同条の趣旨は、公費の濫用がなされることを防いで健全な財政を確保する点にある。また、福祉国家理念の下では、一定の事業等への公費の支出も必要不可欠である。
  そこで、「公の支配」に属するといえるためには、自主性を損なうほどの強いコントロールまでは不要であり、公費の濫用を防止するに足りる相当程度の監督が及んでいれば足りると解する。
  本問制度は、対象となる事業の事業者に対して、助成金の使途を含む収支や事業の実施内容について、内閣の所轄の下に置かれる委員会への報告を義務付けており、また、委員会はいつでも事業者に対して報告を求め、助言、勧告をすることができるとされており、公費の濫用を防ぐための相当程度の監督が及んでいるといえる。
  よって、助成金の交付対象者は「公の支配」に属するものといえる。
(3) 以上より、本問制度は89条に反しない。
2.次に、本問制度は、助成金の対象事業の決定、報告を受けること、助言、勧告をすること等を内閣の所轄の下に置く委員会に委ね、委員会の職務は独立して行うことを定めている。このような職務は行政権の行使であるから、かかる職務を内閣から独立した委員会に委ねることは、行政権は内閣に属するとした65条に反しないか。
 (1) 思うに、65条は、41条、76条1項と共に権力分立を規定するものであるところ、権力分立は行政権に対する抑制原理として働くから、内閣からさらに行政権を分離することは権力分立の趣旨に反しない。また、専門的技術的な政策の判断などをかかる判断能力を有する専門の機関に委ねることには合理性がある。
   そこで、専門的技術的な要請から独立行政委員会を設置することは、最低限の民主的コントロールの確保がなされている限り、65条に反しないと解する。
 (2) 本問委員会は内閣の所轄の下に置かれるのであるから、最低限度の民主的コントロールが及んでいるといえる。また、交付の対象となる事業か否かを判断するためには専門的判断を要する。
(3) よって、本問委員会の設置は65条に反しない。
3.また、本問制度が、委員会にいつでも事業者に対して報告を求めることができるとし、助言、勧告を行えるとしている点についても、この程度のことは助成を受ける団体としては受忍すべきものということができる。
  よって、本問制度は事業団体の自律性(21条1項)を侵害するものともいえない。
4.以上より、本問制度は合憲である。
以上