憲法第1問

1.本問A自治会の決議は、自治会会員の寄付をしない自由を侵害して違憲でないか。
  寄付をしない自由は、憲法29条1項の財債権の行使の事由として保障される。もっとも、人権といえども絶対無制約ではなく、財産権のような経済的自由権は国民の生命・身体を保護する観点から必要な限度での制約を受ける。
2.ただ、本問で問題となっている行為はA自治会の行為であり、A自治会は公共的な性格を有する私的団体にすぎない。そこで、私人間にも人権規定の適用があるのか、人権は対国家を予定して規定されたものとも思えるので問題となる。
 (1) 思うに、人権の価値は全法秩序の最高の価値であるから(97条、11条)、私人間においても人権規定は何らかの形で適用されるべきである。
   しかし、人権規定を直接に私人間に適用すると、市民法秩序の大原則である私的自治を破壊することになりかねず、妥当でない。
 (2) そこで、人権規定は、私法の概括的条項の解釈に際してその価値を取り込まれることで、間接的に私人間にも適用されると解する。
3.では、年会費を1000円増額して、増額分を地域環境の向上等を目的とする団体への寄付にあてるA自治会の決議は、A自治会の「目的の範囲」(地方自治法260条の2)の行為といえるか。
 (1) まず、地方自治法は私法ではないが、同条は私法における団体の権利能力を定めるものとして私法に準じる規定ということができる(地方自治法260条の2第15項参照)。
 (2) そして、会費の徴収や増額は、その団体の活動に必要な限度で「目的の範囲」ということができる。
   しかし、本問決議は、年会費を1000円増額して増額分を地域環境の向上等を目的とする団体への寄付にあてることを内容とするものである。これは、実質的には1000円の寄付を会員に強制するものといえるから、これが「目的の範囲」といえるか否かという観点から判断がなされなければならない。
(3) この点、A自治会の会員は財産権を有している。
  他方で、A自治会は法人であるところ、法人も社会的実在として活動するものであるので、性質上可能な限り人権の保障を受けると解する。そして、寄付をする自由は性質上法人にも保障されているとみるべきであるから、A自治会もかかる自由を保障されているといえる。
  そこで、「目的の範囲」といえるか否かは、制限される人権の種類、性質、内容、制限の程度、達成しようとする権利利益の性質、内容など諸般の事情を総合的に考慮して決せられるべきである。
(4) この点、A自治会が寄付しようとする団体は、地域環境の向上と緑化の促進を目的とする団体であるから、寄付は、地縁による団体であるA自治会が目指す共同生活の向上に資するものともいえる。
  しかし、そのような寄付のための集金に応じる会員は必ずしも多くなかったのは、かかる団体の活動に疑問を持っている会員が相当数いたからであるとも考えられる。そもそも、寄付行為は会員それぞれの自由な意思決定に任せられるべき性質のものであり、寄付を強制することは会員の思想良心の自由(19条)を侵害することにもなりかねない。
  また、寄付は1000円であるが、望まぬ寄付として行う額として小さいとは言えず、財産権行使への制約も大きい。
(5) よって、本問A自治会の寄付は、「目的の範囲」外の行為として無効になるというべきである。
以上