民事2(商法)

第4 設問4(?につき最終頁に補足した)
1. 取締役の行為差し止め請求
(1)Z社としては、?本問合併契約の合併比率が不公正であること、及び?その内容が独禁法違反となっていることを理由として、取締役の行為の差し止め請求(会社法(以下、民法でなくこれを略す。)360条1項、3項)をするという手段を取りうる。
(2)X社は、公開会社であり、監査役会設置会社であるから、当該差し止め請求の要件は、6か月保有要件を満たす株主が、取締役が法令・定款違反する行為をし又はするおそれがあり、当該行為により会社に回復することができない損害が生じるおそれがあることである(360条1項、2項、3項)。
(3)Z社は、X社の株式を長年保有してきたのであるから、6か月保有要件は満たす。
もっとも、?については、差し止めの理由とならない。なぜなら、合併比率の不公正は、取締役の忠実義務違反(355条)といえるが、このような一般的義務については360条1項の法令違反とはいえないからである。
2. 取締役の解任
(1)さらに、Z社は、X社の株式の5パーセントを長年保有する株主であるから、少数株主権として株主総会の招集を求めることができ(297条1項)、最終的には自ら招集することができる(297条4項)。
   そこで、Z社としては、当該合併契約を締結しようとする取締役の解任を議案として(339条1項参照)、株主総会の招集を行うことができる。
   この場合、Z社は、合併に関する書類の閲覧等を求めて情報を得ておき(782条)、他の株主を説得することになる。
(2)また、この株主総会で解任決議を得られなかった場合でも、Z社は、役員解任の訴え(854条)を提起して当該取締役の解任を求めることができる。
第5 設問5
1. 本問委任状及び議決権行使書の有効性
(1)本問委任上及び議決権行使書は、賛否の記載をしない株主について、それぞれ、白紙委任したもの、決議に賛成したもの、とみなすこととしている。
   このような取扱い自体は、株主の手間を省く点で合理的なものといえるから、その表記が見やすい位置にあり、株主が容易にその取扱いを認識できる状態にあれば、有効である。
(2)本問議決権行使書面は、その左下に相当の大きさの枠で囲まれた中に、その取扱いについて記載しており、株主が容易にその取扱いを認識できる状態にあるといえるので、有効である。
(3)他方、委任状も、金融商品取引法に従った用紙で行われており、株主が容易にその取扱いを認識できる状態にあるといえ、有効である。
2. ?の場合について
(1)本問において、議決権行使書面の賛成数、反対数は、34000個、2000個である。Z社が委任状を含めて行使した議決権による賛成数、反対数は、50個、17000個である。さらに、Z社以外の株主が当該総会で行使した議決権による賛成数、反対数は、6000個、1000個である。
(2)よって、この場合の賛成数、反対数は、それぞれ、40050個、20000個である。
3. ?の場合について
(1)この場合、Fは、議決権行使書面においても、委任状によっても議決権を行使したことになるから、二重に議決権を行使していることになり、不当である。
(2)そこで、このような場合のFの議決権行使についてどのように考えるべきかが問題となる。
   思うに、かかる場合には、Fの議決権行使は無効になるというべきである。なぜなら、Fは、いわば賛成と反対の意思を同時に示しており、このような矛盾した議決権行使はもとより許されないし、いずれとして行使したのかも明らかとできない以上、無効とするのが合理的だからである。
(3)よって、この場合、賛成数、反対数は、それぞれ、39950個、19900個となる
第6 設問6
1. 合併の効力発生前
(1)この場合、Z社としては、総会決議取り消しの訴え(831条1項1号)を提起して、合併契約の承認を無効とする手段を採ることが考えられる。
   すなわち、本問株主総会において、議長であるEは、Z社の出した議長不信任動議を無視して合併承認の議決の成立を宣言しているが、かかる行為は、株主に議案提出を認める法の趣旨に反するものであり、「決議の方法が…法令に違反する」といえる。
(2)また、内容が独禁法に反する内容の合併契約を承認する決議は、内容が法令に反するといえるので、総会決議の無効事由になる。
   よって、Z社は、総会決議無効確認の訴え(830条2項)を提起するという手段も採りうる。
2. 合併の効力発生後
(1)この場合、合併の効力を争うには、合併無効確認の訴え(828条1項7号)によるほかない。
(2)この点につき、合併無効事由は法定されていないが、合併比率の不公正は、反対株主に株式買取請求(786条)が認められていることも考えると、無効事由とはいえない。
   しかし、独禁法違反の点は、法令違反であるから、無効事由になる。
   また、総会決議が無効である場合や、取消された場合にも、手続きに重大な瑕疵があるものとして無効事由になると解する。
第7 設問4についての補足
1. ?については、差し止めの理由になる。
   なぜなら、独禁法違反は法令違反である。また、合併されるとX社の法人格は消滅するのであるから、取締役の行為により、回復できない損害が生じるおそれがあるといえるからである。
以上