男性突き倒しに逆転無罪=正当防衛認める−最高裁

 自宅兼事務所に「立ち入り禁止」の看板を男性に張られそうになったため、この男性を突き倒したとして傷害罪に問われ、二審が暴行罪で科料9900円とした不動産業の女性(76)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は16日、正当防衛の成立を認め、逆転無罪を言い渡した。女性の無罪が確定する。
 生命、身体への危害が加えられていないケースで正当防衛が認められるのは珍しい。
 同小法廷は看板の設置について、「不動産業に対する業務妨害、女性の名誉を害する行為で、女性の権利への急迫不正の侵害に当たる」と認定。暴行は軽微で、妥当な防衛手段だったとした。
 一審広島地裁は男性がけがを負ったとして傷害罪を認定し罰金15万円としたが、二審広島高裁は暴行罪の限度で有罪としていた。(時事通信


 事案知らないんで結論が妥当とか不当とかはいえませんが、二審の「暴行の限度で有罪」の論理が気になるところ。是非読んでみたい。
追記:最高裁が原審についても要約してくれてたので読みました。単に傷害結果が認定できないというだけ話でした・・・てかこの事案で起訴する検察どーなのよ。
以下、最高裁HPから引用(平成21年07月16日 最高裁判所第一小法廷 判決)
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成18年12月22日午後7時20
分ころ,広島市南区所在の被告人方前路上において,B(当時48歳)に対し,そ
の胸部等を両手で突く暴行を加えて同人を転倒させ,よって,加療約1週間を要す
る後頭部打撲等の傷害を負わせた。」というものである。第1審判決は,公訴事実
に沿うBの供述及びその場に居合わせたCの供述に信用性を認め,公訴事実と同旨
の犯罪事実を認定し,傷害罪の成立を認め,被告人を罰金15万円に処した。
これに対し,被告人が控訴を申し立て,被告人は上記暴行を加えていないとして
第1審判決の事実誤認を主張した。原判決は,要旨以下のような理由により,被告
人について傷害罪が成立するとした第1審判決は事実を誤認したものであるとし
て,これを破棄した上,被告人がBに対してその胸部等を両手で突いて転倒させる
暴行(以下「本件暴行」という。)を加えたという暴行罪の限度で事実を認定し,
被告人を科料9900円に処した。すなわち,原判決は,本件暴行を否定する被告
人及びその夫D(以下「D」という。)の各供述を信用することはできないとする
一方,Bが勤務する株式会社E不動産と,被告人,D及び被告人が代表取締役を務
める有限会社F宅建との間で,上記被告人方住居兼事務所(登記上は倉庫・事務
所。以下「本件建物」という。)の使用方法等をめぐる民事上の紛争が生じてお
り,Bが被告人を不利な立場に陥れることによりE不動産を上記紛争において有利
な立場に導こうという意図を有していた可能性は否定し難いことを指摘した上,本
件被害状況に関するBの供述の信用性には相当の疑問があるとし,Cの上記供述と
一致する点については信用できるものの,転倒した際に地面で後頭部を打ったとす
る点については信用できず,Bに後頭部打撲等の傷害が生じた事実を認定すること
はできないとした。
2 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。
(5) 前記のとおりCらが本件看板を本件建物の壁面に取り付ける作業を開始し
たところ,被告人及びDがやってきて,何をするんだなどと大声で怒鳴り,被告人
は,Cの持っていた本件看板を強引に引っ張って取り上げ,裏面を下にして,本件
建物西側敷地と上記歩道にまたがる地面へ投げ付け,その上に乗って踏み付けた。
Bは,被告人が本件看板から降りた後,これを持ち上げ,コーキングの付いた裏面
を自らの方に向け,その体から前へ10㎝ないし15㎝離して本件看板を両手で持
ち,付けてくれと言ってこれをCに渡そうとした。そこで,被告人は,これを阻止
するため,Bに対し,上記市道の車道の方に向かって,その胸部を両手で約10回
にわたり押したところ,Bは,約2m後退し,最後に被告人がBの体を右手で突い
た際,本件看板を左前方に落として,背中から落ちるように転倒した(本件暴
行)。
なお,Bが被告人に押されて後退し,転倒したのは,被告人の力のみによるもの
ではなく,Bが大げさに後退したことと本件看板を持っていたこととがあいまっ
て,バランスを崩したためである可能性が否定できない。
(6) Bは,本件当時48歳で,身長約175㎝の男性であり,被告人は,本件
当時74歳で,身長約149㎝の女性である。被告人は,本件以前に受けた手術の
影響による右上肢運動障害のほか,左肩関節運動障害や左肩鎖関節の脱臼を有し,
要介護1の認定を受けていた。
3 原判決は,本件暴行につき被告人を有罪とした上で,被告人はBらによる本
件看板の設置を阻止しようとして本件暴行に及んだものであるが,前記2(3)のと
おり即時抗告棄却決定においてE不動産が被告人らに対して本件建物の明渡しや工
事の中止等を求める権利がない旨判断されていること等からすれば,Bが本件看板
を本件建物に設置することは,違法な行為であって,従前の経緯等をも考慮する
と,嫌がらせ以外の何物でもないというべきであるとし,Bによる違法な嫌がらせ
が本件の発端となったことは,刑の量定に当たって十分考慮しなければならない旨
判示し,前記1のとおり,被告人を科料9900円に処した。